添乗員インタビュー:「自分と人との喜び作りがしたい」添乗員が天職と語るその理由とは?

添乗員に仕事のやりがい、実務でのさまざまな出来事など、現場のリアルを語ってもらう添乗員インタビュ―特集。

決して楽しいことばかりではない、職業的にも安定的とはいえない添乗員の仕事。それでも「自分にとって添乗員は天職です」と語ってくれたのは、全く別の業界から添乗の世界へ飛び込んだ北見竜也さん。

北見さんはなぜ添乗員になったのか、天職と語るその胸の内に込めた仕事への想いをお聞きしました。

死ぬまでにできるだけたくさんの景色を目にしたい

――北見さんは、もともと旅行がお好きだったんですか?

北見竜也さん(以下、北見さん):私は学生時代、アメリカに留学していたんです。せっかくなら留学先を楽しみたい!と思って、夏休みにグレイハウンド(※)というバスを乗り継いで、グランドキャニオンとヨセミテ国立公園を一人旅しました。

とにかくバスのチケットだけ予約して、右も左も分からない状態でのスタートでしたね。宿も直前にギリギリ予約して、行ってみたらベッドと毛布だけが置いてあるテントのようなところで朝方冷えてすごく寒かった!など、まさに行き当たりばったりの旅。でもそれが、なんだんかんだうまくいったんですよ。

そこでちょっと味を占めて、その後は鉄道で2泊3日の鉄道移動で1ヶ月間のニューヨーク~フィラデルフィア~ワシントン~ボストン周遊旅に行ったり、飛行機使ったり、車でドライブしたり…アメリカ国内をいろいろと回っていました。国土の広い国でしたが、大学4年間で本当にたくさんの場所を巡ってきて、それが旅好きになったきっかけかなと思います。

※グレイハウンド:アメリカではポピュラーな老舗の長距離バス

――そんな旅に魅せられた北見さんが、旅を仕事にする「添乗員」になったきっかけと理由を教えてください。

北見さん:社会人になってからも、ゴールデンウィークや盆暮れなど大型連休を利用して、アジアや中東旅行を中心に、いわゆるバックパック旅行へ行っていました。おそらく30ヶ国ほどいったでしょうか。

ただ一人旅のことが多かったので、この楽しさを誰かと一緒に共有できたらもっと楽しいんじゃないかなと思ったんです。

また、世界中に素晴らしい場所がたくさんあるのに、おそらく自分が生きてるうちには周りきれません。その時点で『死ぬまでに行きたい世界の絶景』の本を見ても、自分がたったの5ページくらいしか行ってないことに気づいたんですよね。
たとえ旅に行くペースをあげたとしても、金銭的にも体力的にも一生のうちにすべてを行くというのは厳しいじゃないかと。

そんなことを何年か考えているうちに、前職で転勤が決まって、そこが国際空港から4時間ほどかかる場所でした。まっさきに「空港から4時間もかかると、海外に行くのにますます時間がかかってしまう」と思ったんです。

そのときあらためて、自分は旅をしたいんだということに気づいて…。そのすべてが叶うのは添乗員だと、今の仕事を辞めてこの世界に飛び込んでみよう!と決意しました。

自分と人との喜び作り、それが叶うのが添乗員だった

――添乗員のメリット、やってよかったと思うのはどんなことですか?

北見さん:個人的には、やはりいろいろな国に行けることです。好きなことを仕事にしてお金をもらえる、これが一番のメリットですね。

いろんな国へ行くとフライトのマイルも貯まります。何度も行っているとステータスも上がっていくので、ラウンジが使えるようになったり、優先サービスを受けられたりするのは単純に嬉しいですね。

また、自分で仕事のスケジュールをある程度決められるので、例えば個人的に旅行へいく期間は長期的に休むこともできます。そういうフレキシブルさもいいところではあります。

ただそうしたメリット以上に、この仕事は自分の天職かなと感じているんです。

――「添乗員が天職」とおっしゃるその理由は、どんなところにあるんでしょうか?

北見さん:これは添乗員になったきっかけにも通じるところなのですが、私は常々人生で「自分と人との喜び作り」をしたいと思っていて。まさにそれが叶う仕事が添乗員でした。

添乗員は、旅を通して、お客様の貴重な時間に立ち会うことができます。例えば、新婚旅行や家族の記念旅行、憧れの場所に待ち焦がれてやっと来ることができた人など、いろんな方々に出会えます。

自分が何のために働いていて、どうやって社会に貢献していくのかと考えた時に、こうした喜び作りに関わることこそが、自分の役割じゃないかと思っているんです。

――とても素敵な考えですね!そんな添乗員のやりがいを感じるのは、どんなときですか?

北見さん:やりがいという点では、私がお客様と海外の文化の架け橋になることができるというところです。ツアーに参加される方は、やはり海外旅行での言葉の壁があったり、不安があったりということが多いんです。そうしたときに、手助けしたりお手伝いできたりすると、お役に立てたのだと嬉しくなります。

一人ひとりのお客様が、心から楽しかったと思ってもらえるような旅にするという難しさもありますが、お客様との距離が近いからこそ、いろいろなコミュニケーションができます。「楽しかった」「北見さんと一緒に旅行できてよかった」「充実した旅行になりました」とポジティブな感想をいただいたときが、やはり大きな喜びですね。

華やかに見える一方、労働環境が厳しいのも事実

――とは言え、添乗の仕事もいいことばかりではないと思います。デメリットやつらいことはありますか?

北見さん:労働環境でしょうか。特に海外添乗には事前準備がかなり必要で、業務時間外でやっている仕事がとても多いことですね。

具体的には、コース内容のチェック(英語の資料を含め)に始まり、お客様へ渡す資料作成、ツアーに参加するお客様へのお電話、一人ひとり違うオプションやリクエストの確認。また添乗員は基本、ガイドさんの役割はしてはいけないんですが、行先によってはそれに近いこともしなくてはならず、それ相応の知識の勉強も必要になります。

こうした一連の準備は、とても会社から充てられている時間内には終わりません。結局は、時間外や休みの日にやることになってしまうんです。

さらに現地では、ツアー中は思ってもみないハプニングやトラブルが起きることもあるので、深夜であろうが早朝であろうが時間関係なく対応しなければなりません。

何より現場では誰にも相談できないので、ひとりで判断しなくてはという重圧と大変さがあります。もちろん、会社に相談しますが日本と時差もありますし、現場にいるわけではないので、たとえ全くの想定外や初めての事象であっても、結局はすべて自分で対応しなければならないんですよね。誰も教えてくれないため、状況に対応できる柔軟性も大切です。

ヨーロッパで突然のデモ、空港にたどり着けなくなったお客様

――旅にトラブルはつきものですが、これまで経験した印象的な事件やハプニングのエピソードはありますか?

北見さん:ヨーロッパはデモが多いんですが、帰国日に空港待ち合わせの自由行動で、お客様がデモに巻き込まれたことがありました。

そのとき、急に地下鉄も使えなくなって、交通整理のためタクシーも使えず、かなりのピンチでした。ですが、もちろんその方だけのためにツアーのお客様全員が待つわけにはいきません。他のお客様には搭乗手続きをしもらって、私はギリギリまで残ってお客様を待つことしました。

幸いにも、現地のガイドさんと協力して、なんとかお客様は無事に空港へ到着することができて、他のお客様とも合流して無事に帰国することができました。

結果的には問題なかったのでですが、遅れてるお客様もケアしなければいけない、同時に他のお客様のケアも必要、いろいろな板挟み状態でその場の判断が難しいところでしたね。

――それは大変だったのですね。本当に、海外は何が起こるかわかりませんよね…。

北見さん:ヨーロッパのデモは、現地に行かないとわからないですし、その場で急に状況が変わって、交通機関が止まることもザラです。そういった状況でも、組み込まれているツアーの行程はこなさなければいけません。

ただ、そういったときにありがたいのが、添乗員同士のつながりです。帰ってきた添乗員仲間に最新の情報を提供してもらったり、違う会社の添乗員の方であっても現地で会うとお互いに助け合って情報共有しています。

これだけは欠かせない、添乗員のマストアイテム

――海外添乗のとき、必ず持っていくアイテムはありますか?

北見さん:行く場所によって変わりますが、6つ程あります。

1つめは、パスポート。これはもちろんですよね(笑)。

2つめは、修正テープです。これは完全に仕事道具なのですが、日報を書く際にあると便利なんです。日本の文房具は優秀で、現地では買えませんからね。

3つめは、ワインのボトルケースです。特にヨーロッパに行くときに、お土産のリサーチの意味でもよく買ってくるんです。瓶が割れないように日本に持ち帰るアイテムは必須ですね。保冷バックを持って行くこともあります。

4つめは、緑茶。やはりほっとします。特にヨーロッパだと緑茶は売ってないので持っていきますね。

5つめは、インスタント麺。時間ないときにもいいですし、節約したいときにも。ヨーロッパでは一食1,500円くらいするので、積み重なると結構な痛手です。そんな時でも重宝します。

6つめは、maps.meのアプリです。日本の携帯電話のまま持っていって、オフラインでも使うことができるので役立っています。

お客様の笑顔と達成感が何よりの原動力

――最後の質問です。添乗員をやってみたいという方へ、ぜひメッセージをお願いします。

北見さん:もし添乗員という仕事に興味を持っている方がいたら「好きだったらやりましょう!ある程度は覚悟が必要です」とお伝えしたいですね。

たくさん旅行に行ける華やかな世界に見えますが、大変なことも多いです。拘束時間も長く体力も必要ですし、精神的にキツイこともあります。

ただ、それに勝るのはお客様の笑顔。そして、一つひとつの責任が大きい仕事だからこそ得られる達成感があります。好きならぜひ、一緒に頑張っていきましょう!

インタビュー/文:照井悦子)

tabiten

『旅添』は、世界50カ国以上を旅してきた旅好き元・添乗員Anaを中心に添乗員仲間が本当に役立つ旅の情報をお届けする旅メディア。国内外の旅のお役立ち情報を発信しています♪

最新情報をチェックしよう!