添乗員インタビュー:トラブルも悪いことばかりじゃない!添乗員を志した意外なきっかけとは?

添乗員に、仕事のやりがい、職業についたきっかけを語ってもらう旅添ならではのインタビュ―特集。

今回、ドラマがきっかけで添乗員になり、「添乗員は、やっと見つけた自分にとってのライフワークです」と語ってくれたのは、二宮咲希さん。二宮さんが添乗員という仕事にピンときた経緯、実際に現場で起きたトラブルや裏話などをお聞きしました。

きっかけはドラマ。海外経験が少なくても、勢いで飛び込む!

――二宮さんはどんなきっかけ、経緯で添乗員になられたのですか?

二宮咲希さん(以下、二宮さん):実は、高校時代に「男女7人夏物語」というドラマを観たのがきっかけでした(笑)。当時はとても人気のドラマで、明石家さんまさんが添乗員役をされていたんです。そこで初めて「添乗員」というお仕事を知りました。ドラマの中では、とても魅力的な仕事として描かれていて憧れを持ちましたね。

その時から興味を持っていたので、「とりあえず、海外旅行系の旅行会社に入ればいいかな?」という安直な発想で、学校卒業後に旅行会社に入社しました。

実際、そこでは添乗業務ではなく事務の仕事をしていたのですが、海外添乗員の資格(総合旅程管理主任者)だけは取っていたんです。

当時は、結婚したら退職するというのが一般的な時代だったので、私も結婚を機に旅行会社を退職しました。そのタイミングで添乗員をやってみようと、派遣会社に登録したんです。

――スタートは違えど、添乗員になるべく、着実に積み上げられていたのですね!

添乗のお仕事をするには、海外渡航経験が多い方が心強そうなイメージですが、添乗員になる前には何ヶ国くらい行かれていましたか?

二宮さん:実は添乗員になる前、ホームステイしていたカナダと、新婚旅行のメキシコ、あとオーストラリアくらいしか行ったことがなかったんです。

そのときは勢いで、特に不安もなく飛び込んでしまいましたね。今振り返ると、きっと若かったからできたことなんだろうなと思います。

――当然行ったことのない国に添乗することもあると思いますが、対策としてはとにかく事前に勉強するのみ!という感じなのでしょうか?

二宮さん:おっしゃるとおり、ひたすら下調べですね。添乗員を始めたばかりの時は、いくら勉強していっても「ここに来たことがあるふり、知ってるふり」をしなくてはならない場面があります。ですから、お客様に対する罪悪感のようなものを感じていました。

嘘はつきたくないですが、初めてだとわかったらお客様も不安を感じますよね。添乗員である私に、誰もついて来てくれなくなってしまいます。

ただいろいろなツアーに行くうちに、その罪悪感もなくなってきたかなと思います。もちろん初めての国に行く時はすごく緊張しますが、調べれば調べるほど楽に行けるようになって「意外とどうにかなる!」という経験値もついてきましたね。

添乗員、悲喜こもごも。体調不良も気合いで乗り切る!

――「添乗員をやっててよかった!」と感じるのはどんなことですか?

二宮さん:やはり自分がいままで知らなかったところ、いろいろなところに行けることですよね。同時に、ツアーに参加されるいろいろな方と出会えるのが楽しいので、やっててよかったと思います。

――逆に、つらかったのはどんなことですか?

二宮さん:体力面で、ツアー中の睡眠不足がつらいですね。ベテランになるとそんなこともないかと思いますが、添乗員になりたての頃は、連日下調べに追われがちなんです。

もちろん事前に調べて行きますが、ツアー中には、お客様からの質問、急な変更情報、現地に行ったからこそ必要になる調べものが、次から次へと発生します。そうするとあっという間に深夜になって、連日寝るのが遅くなってしまいます。

とにかく、確認、確認、再確認が、添乗員の基本。突き詰めているとキリがないので、途中であきらめて寝る勇気が大事ですね。だからこそ、添乗員は度胸のある人が多いかもしれません。

――ただ睡眠不足に限らず、添乗員さんも人間ですから体調が悪くなるという事もあると思います。ツアー中の体調不良は、どのように乗り切っているのですか?

二宮さん:最初の頃、緊張しすぎて前日に40度の熱を出して、ツアーをドタキャンしてしまったことがあるんです。いろいろな意味で辛かったですね。

その経験から「絶対に熱は出さない!」「ツアーに穴を開けない!」という気合いでなんとか乗り切っています。だからなのか、ツアー中に体調を崩したことはないのですが、念のため、想定しうる薬は全て持参しています。風邪をひいても、歯が痛くなっても、口内炎やものもらいができても大丈夫です!

――ものもらいの薬まで準備されているんですね!

二宮さん:はい、ツアー中は自分の世話をする時間がないので、あらゆる体調の変化を想定して、セルフケア用品は意識して持参しています

以前、重い荷物を持ち続けていたせいか、背中に原因不明の激痛が出た時がありました。腕を下げると痛くて眠れない、横向きでも眠れない、何をしても痛くて…。日常生活に支障がでるほどです。

ただ、添乗に行かないわけにはいきません。機内ではCAさんに枕を左右5個ずつくらいもらって、腕を上げたまま寝て、さらに小さいストレッチポールも持参、強い痛み止めももらって添乗していました。ただ、添乗中はアドレナリン出ているからなのか、何とかなってしまうんですよね。無理やり動かしてたのがよかったのか、3日めくらいに症状は消えてしまいました!

トラブルも悪いことばかりじゃない

――これまでの添乗で、とんでもないトラブルや印象的なエピソードなどはありましたか?

二宮さん:トラブルは結構いろいろあって、特に忘れ物のトラブルはとても多いですね。添乗員から再三「お忘れ物のないように、座席も網棚も全部確認してください」とはお伝えしているのですが、ついつい忘れてしまうんですよね。ただ日本と違って、海外では忘れ物や落とし物をみつけるのは、本当にひと苦労なんです。

ある時のイタリアのツアーで、最終日前日でした。

バスを降りてホテルにチェックインして、しばらくロビーで待っていたら、お友達同士で参加の学生さんのひとりが「スマホがありません」と半泣きでいらしたんです。荷物もお部屋も確認してもない、そうなると考えられるのはもうバスしかありません。そこで、私がバスのドライバーに電話してみたのですが、出ません。

その学生さんはあまりにもショックすぎて、泣き始めてしまって、さらにそれを通り越して過呼吸になってしまったんです…。今の学生さんにとっては、スマホの重要性って私たちの想像をはるかに超えているんですよね。もう命の次に大事というくらい、無くなったらすべて終わりという感覚です。

現地の手配会社に連絡したり、可能性のあるところに問い合わせたり、いろいろとやりとりしていたのですが、その状況を見たホテルのスタッフが「あんなに泣いて過呼吸になってるんだから、ちゃんと世話しなさい!救急車はどうしたの?!」って怒られてしまって。

――そういう時でも、ひとりで対応されるのは大変ですよね。その方のためにいろいろと捜索してるのに、怒られてしまうなんて切ないですね。

二宮さん:スタッフはおそらく状況がわからなかったからなのですが、私も私で「添乗員は私ひとりしかいないし、彼女のために今やってるのよ~!」って必死で反論してしまいました。

ただ連絡がつかないと今出来ることはないので、ひとまずその学生さんはいったんなだめて、明日の準備もあるので休んでいただきました。結局、夜中に現地の手配会社と連絡が取れて「明日、空港までの送迎バスを担当するマイケルという運転手に、絶対持って行かせるから!大丈夫」とのことだったんです。

――それは良かったです!

二宮さん:いえ、そうもいかないのが海外で…(笑)。一瞬はホッとしましたが、実物が手元に戻るまでは油断できません。特にお客様に「絶対届く」などと確約するのは危険なので、「それらしきものはあったようで明日持ってきてくれそうですが、また翌朝に確認します」とお伝えしました。

翌朝、バスが到着するやいなや、私はかけ寄って『あなたがマイケル?スマホは持ってきてくれてる?』と聞いたんです。そうしたら運転手は『マイケルって誰?』と(苦笑)。

来たのはマイケルではない、別の運転手だったんです。すぐにその運転手に確認してもらうと、マイケルは他のバスに乗っていて、学生さんのスマホは事務所に置きっぱなしだったそうなんです。それを知った学生さんは、また泣き出してしまうという。もうカオスですよね。

忘れ物を探すには、問い合わせの段階から手数料がかかります。さらに空港までスマホを届けるとなると、また別途料金がかかってしまうんです。何より、私たちはその日の昼便で日本に帰国予定なので、出発便に間に合うかどうかも約束できません。ただ、それでもその学生さんは「持ってきてほしい!」とのことだったので、手配を依頼しました。結局、ゲートに入る本当に直前にスマホが届いて、その時はツアーメンバーみんなで歓喜に包まれましたね。

――まるでドラマのようなギリギリ感ですね!

二宮さん:トラブルは無いに越したことはないし、遭遇してしまった当事者も、対応に追われる添乗員も大変なのですが、悪いことばかりではないんです。特にツアーは、なにかトラブルがあった方が、「みんなでこの難局を乗り切ろう」みたいな一体感が生まれて、お客様がまとまったり、仲良くなったりするんですよね。

まだまだ行きたい!行きたいところしかない!

▶ロシアの世界遺産セルギエフ・ポサード

――添乗員のやりがいとは、どんなところですか?

二宮さん:お客様に喜んでもらえることですね。毎回、何かしらしんどいことはありますが、お客様と別れる頃には「ああ、また行こう。行きたいな」と麻薬のように思えてしまうんです。

――これまで添乗で行って、よかった国があれば教えてください。

二宮さん:どの国もいいところばかりなのですが、特によかったのは、イタリアとロシアです。イタリアは、人が明るいのでハッピーな気持ちになります。また、お客様もイタリアを選ぶ方は、みなさんどこか楽観的な方が多い印象です。食べ物はおいしいし、見所も多いのでおすすめです。

ロシアはあまり身近なイメージがないかもしれませんが、「見てきれいなもの」が多く、今はインスタ映えという点でも若いお客様も多いです。食べ物も意外と日本人の舌に合うんですよ。

――コロナが収束したら、また添乗のお仕事はされる予定ですか?

二宮さん:やりたいですね。子育てがひと段落して、私にとって添乗の仕事は、やっとみつけたライフワークなんです。まだまだ、たくさんの国に行きたいですし、行きたいところしかありません!

添乗員に向いているのは、人が好きで未知の世界を楽める人

――最後に、添乗員にはどんな人が向いていると思いますか?

二宮さん:一番は、人が好きなこと。人が好きならどんな人でもなれる気がします。あとは、基本的に出かけるのが好きなことと、現場対応力があることでしょうか。

――添乗員のお仕事に興味のある方に向けて、メッセージをお願いします!

二宮さん:興味があれば、まずは飛び込んでほしいですね!資格を取って、やってみる。やってみれば、どうにかなりますし、現場に行ったらもうやるしかありません。やる気さえあれば誰でもできる!みたいなところがありますね。

添乗員は、自分の知らないことをたくさん知ることができて、いろんな人に出会えるので、好奇心がある人にはぴったりです。人生にプラスしかない、それが添乗の仕事だと思います。

(インタビュー・文/桐谷望美 )

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