添乗員インタビュー:お客様の「楽しかった」がなによりのやりがい

コロナ禍で、海外添乗に出られなくなってから早1年以上。「早く添乗でいろんな国に行きたいです」と語ってくれたのは、海外はもちろん、国内の添乗経験も豊富で「日本全国はほぼ回ってきた!」という添乗員歴10年超えの松本祐子さん。

今回はそんな松本さんに、添乗員を目指したきっかけ、添乗員ならではの旅のエピソードについてインタビューしました。

添乗員になったのは「人生やりたいことをやろう」と考えるきっかけがあったから

ー国内旅行中心にたくさんの添乗経験がある松本さんですが、添乗員を目指すきっかけはどんなことだったのでしょうか?

松本さん:そもそも旅行が大好きでした。添乗員になる前は事務職をやっていたのですが、なかなか長期休みが取れず、旅行に行けなかったのです。そんなとき、とてもよくしてくださっていた上司が、突然亡くなってしまって…そのとき「人生、後悔しないように、やりたいことをやろう!」と強く思ったんです。この出来事が決定打になって、添乗員を目指すことにしました。

ー事務職から正反対のイメージの添乗員を目指したとは、すごい転身ですね。

松本さん:もとからじっと座っているよりも、動くことが好きだったんですよね。人と話すことも大好きだったので、むしろ事務職よりも現場で動いて働く方が、私には合っているかなと思っていました。

以前から、旅行業には関わりたいなと思っていたので、旅行業務取扱管理者の資格は取っていたんです。ただやはり現場がいいと思って、それなら添乗員といういう仕事があるなと目指すことにしました。

当時はまだ20代だったということもあって、迷わず決断できたのだと思います。あとはとにかく、大好きな旅行に行きたかったという思いですね。仕事として旅行に行けるなんて最高!と思っていました。

あらためて、その土地の良さを再発見できた

ー添乗員になってよかった点は、やはり旅行にいけることでしょうか?

松本さん:そうですね。仕事を通じて、これまでたくさんの旅行地に行くことができました。国内に関しては、日本全国ほぼ行けたかなと思います。

もしプライベートだったら、自分の行きたいところや知っている範囲しか行こうと思わないし、つい同じところばかり行ってしまいがちですよね。添乗員だからこそ、自分では選ばないようないろいろな場所に行くこともできて、その土地を良さを再発見できました。

とは言え、添乗員を始めたころは全く気が抜けず、旅行を楽しむ余裕はなかったですね。

今はようやく楽しめるようになったし、出来るだけ楽しむようにしています。もちろん仕事なので、本当にオフの気分になるわけではないですが、自分が楽しんでご案内したほうが、きっとお客様も楽しめるのではないかと思っているんです。

▶静岡県白糸ノ滝と富士山

ツアーの内容に関わらず、お客様に満足していただく大変さ

ー添乗のお仕事はそうした楽しさがある反面、つらかったことやイメージが変わったことはありますか?

松本さん:どんなツアー内容であっても、お客様に満足していただかないといけない大変さがありますね。

ツアーには、たいてい最後にお客様に書いてもらうアンケートがあります。おそらく、あのアンケートは適当に書いてるという方が多いと思うのですが、あれがすごく重要で…(笑)

私も添乗員になるまで知らなかったのですが、実はあのアンケートは、添乗員の評価や査定に関わる超重要なものなんです。あまりに結果が悪いと、残念ながらその後の仕事に影響が出ることもあります。

ツアーの現場にいるのは添乗員とお客様だけなので、会社側はアンケートでしか添乗員を評価できないんですよね。自分がどんなに頑張っていたとしても、お客様が満足していなかったらあまり意味がないんです。だからこそ、このアンケートの結果を気にして、それに一喜一憂してしまうつらさもあります。

日本の方は、思っていてもなかなか声に出さない場合が多いですよね。ツアー中に気になることがあっても、その場でなく最後のアンケート書かれる方もいらして、そうなるともう現場でリカバリーできないので、悔しい思いが残ります。

もちろん、対応出来ることと出来ないことがありますが、旅行中に気になったことをもしその場で伝えていただけていたら、添乗員として何かできたのに…、と思うことはあります。

ー現場に立つお仕事として、責任重大なのですね。具体的に、お客様に満足していただくために苦労したエピソードはありますか?

松本さん:企画内容がお客様に不評だとすでに分かっているツアーに行く際は、どうやってお客様に満足いただくか悩みますね。

ツアーには、必ず日報という業務報告書のようなものがあって、添乗員は各ツアーごとに毎回作って提出します。
自分が添乗する際は、他の人の過去の日報を参考にして下調べするんです。そのため、あらかじめお客様の反応や、そのツアーの問題点などがわかることが多いんですよね。特に格安ツアーは、食事や部屋がよくないといった声がよくあります。

こういった不満はそもそもツアー企画次第なので仕方がないのですが、やはり添乗員としては、少しでもそうしたマイナス要素をなくすために工夫しなければなりません。

例えば、昼食の量が少ないと分かっているツアーなら、「今日のお昼は、男性の方にはちょっと量が少ないかもしれません。次の観光地では、〇〇という美味しい名物があるので、お昼前に召し上がるとちょうどよいかもしれませんね」などと説明したりします(笑)。

それでもどうしようもない時は、お客様がネガティブに思われないように、なんとか笑いに変えてしまうこともありますね。

期待せずに行ったロシア、寒いだけじゃない意外な魅力

ーこれまで添乗で行って「よかった!」と思った国はどこですか?

松本さん:どこもよかったのですが、期待していなかったという点で「ロシア」です。ご飯がとても美味しくて、また意外性もあってよかったですね。

特に、日本でもよく知られているロシア料理の「ピロシキ」。ロシア現地のものは日本のように揚げパンではなく、焼くのが一般的なので、ヘルシーさもあって美味しかったです。

添乗員は比較的、なんでも美味しく感じてしまいがちでおいしさのハードルが低いのですが(笑)、本当におすすめですよ。

また、初めて行った時が冬で、マイナス28度と外は極寒でした。雪だるまのように着こまないととても外は歩けないのですが、室内は半袖でいられるほどの暖かいんです。床ヒーターだけでなく窓下にもパネルヒーターもあって、暖房はばっちり。室内なら日本のほうが寒いくらいで、極寒の地でも意外な快適さにびっくりしました。

▶ウスペンスキー大聖堂

日本と比べれば、どの国もハプニングだらけ

ー海外添乗でのハプニングなどのエピソードはありますか?

松本さん:海外に行くと、日本のホテルのレベルに敵うものはないと感じます。

せっかちな日本人の感覚だと、海外ホテルの対応が何もかも遅くて…。特に格安ホテルだと、お湯が出ないとか、部屋の何かが壊れてるとか、本当にいろいろ起こるんです。

そういうとき、ホテルのフロントに電話しても、30分くらい来ないのは当たり前。何回電話しても来ないこともよくあります。改めて、日本のホテルのレベルってすごいなと思います。

ー日本に慣れていると、海外では予想外なことがたくさんあるのですね。

松本さん:予想外なことといえば、数年前、ちょうど日本の帰国日に台風が直撃してしまって予定日に帰国できないことがありました。そのときは、エジプトのツアーでしたが、現地で延泊することになって。部屋の手配や手続きなどで、お客様をかなりお待たせてしまいましたが、どうにか対応できました。

こうした急な出来事があると「どうしよう‼」となりますが、なんとかするしかないんですよね。この先も、海外の添乗はやればやるほど、予想外のことが出てくるんだろうなとは思います(笑)

現場を任される大変さも、お客様のひと言で全て吹き飛ぶ

ーずばり、添乗員のやりがいはどんなところでしょうか?

松本さん:ツアーを無事終えたとき、「お客様が喜んでくれること」ですね。スケジュールがつまったツアーや、繁忙期で時間が読めない行程など、現場がとても大変なものがうまく調整できて全行程が無事に終わり日本に帰国して、最後にお客様から「楽しかった」「ありがとう」という言葉を聞けたら、それだけで全ての疲れが吹き飛びます

せっかく参加してもらったのだから、やはりお客様には存分にツアーを楽しんでほしいですよね。そのために、添乗員として何かあったらツアー中に言っていただけるようにお声かけをしたり、言いやすい雰囲気を作ったりするように心がけています。

私ができることは改善して、できるだけすべてのお客様に満足していただける旅行にできたらと思っています。

※添乗員のプライバシー保護のため、お名前は仮名としております。

(インタビュー・文/岩田ひろ)

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