添乗員インタビュー:どんなトラブルも前向きに!信頼される添乗員になるヒントとは?

添乗員の本音や、仕事の実態を語ってもらうインタビュ―特集。

今回は、20代で添乗の世界に入って結婚・出産で一度現場を離れながら、子育てが一段落したあと、再び添乗員としてキャリアを積み上げてきた坂井恵美子さんにインタビューしました。穏やかで芯の強さを感じさせる人柄は、同僚からもお客さまからも慕われています。

そんな坂井さんに、意外と知らない添乗員という仕事について、そして添乗の仕事にかける想いをお聞きしました。

添乗員を選んだのは「日本をベースにして海外に行ける仕事」だったから

ー添乗員になったきっかけを教えてください。

坂井恵美子さん(以下、坂井さん):高校卒業後に短期大学の英文科に入って、卒業後はすんなりと一般企業に就職しました。ただわりと飽きっぽい性格なので、転職してはまた別の会社に勤めて、という感じだったんですよね。

そうしたときに、ふと「せっかく大学まで出させてもらったのに、親への恩を返していないな」と思いまして。大学で勉強したものが、果たして今の仕事の役に立っているのかと考えた時に、「もう少しちゃんとやっておけばよかったな」という意識が芽生えたんです。

せっかく勉強してきたこと、大学まで行かせてもらったことを無駄にしないためにも「今一度、自分でしっかりやってみよう!」と思い、そこからお金を貯めて28歳の時にオーストラリアに留学しました。

現地での就職も考えたのですが、両親もまだ健在でしたし日本で就職したいと思っていたんです。そこで、日本をベースにして、英語を使って海外に行ける仕事はなんだろうと考えた時に思い浮かんだのが「添乗員」でした。

ー旅行関係だと似たようなお仕事で「ガイド」という選択肢もあったのかと思うのですが…

坂井さん:そうですね。ただ、基本的にガイドは現地に住んで、日本人の方をお迎えするので、自分がどこかに行くより現地でご案内することになります。基本的に飽きっぽいタイプなので、一か所に留まって同じ場所を案内するよりも、自分が出ていくほうが向いてるのかなと思ったんです。何より拠点を日本において、両親を安心させてあげたかったということも理由ですね。

添乗の仕事で家を空けることが、家族にもいい影響に

今現在までで、添乗のお仕事はどのくらいされているんですか?

坂井さん:年数だと、トータルで7年くらいでしょうか。結婚後、子育ての間はお休みしていたんですが、ある程度ひと段落してからまた始めました。

ー添乗の仕事は家を空けることも多いお仕事だと思います。家庭との両立は、どうコントロールされているのでしょうか?

坂井さん:ある程度子育てが終わった状況の私としては、私がいない状態の家庭=夫と子どもだけの時間を作ることは、けっこう意味があると思っています。

私がいないとなったら、それぞれが家のことをやらざるを得ませんよね。子どもも積極的に家事をやったり、主人も協力してくれているようで、家に帰った時「あれは誰がやった、これは誰がやった」というのを毎回聞くのがおもしろいなぁと。そんな生活の変化を楽しみ始めたところでコロナが広がってしまったので、また旅行業も回復してくれば、同じように仕事させてもらえるかなと期待しています!

年齢のアドバンテージが感じられるのが添乗員

ー添乗員さんの年齢層はどのくらいの方が多いのですか?

坂井さん:私のわかる範囲になってしまいますが、だいたい30~30代後半までが多く、それ以降になると少し減り、50代間近の方や60代の方もけっこういらっしゃいます。イメージよりもきつい仕事なので、若い時に始めた方は「他にもやれることがあるんじゃないか」と30歳くらいで辞めてしまうんですよね。

ー年齢が上の方もいらっしゃるんですね!60代などになると、いろいろときついのではというイメージがありました。

坂井さん:それが結構多くいらっしゃるんですよ。50代くらいまで勤めると、割と苦にならなくなるというか。そのまますんなりいってしまう方が多い気がします。

年代が上の方が添乗員だと、人生経験も豊富で、頼りがいある感じがしませんか?お願いごとやお話も、お客様が素直に聞いてくださる印象がありますね。

やはりお客様は、「安心」を買って添乗員付きツアーを選ばれるので、添乗員の年代が上で困るということはあまりない気がします。

ー年間を通して、忙しいシーズンはいつ頃なのでしょうか?

坂井さん:お客様の層によりますが、3月辺りだと卒業旅行の学生さんが本当に多くて忙しくなります。それ以外の時期は、リタイアされたご夫婦やお友達同士の方がいらっしゃいます。ここ最近では(コロナ前)、値段が安い時期にわざわざお休みを取って行かれる方も多くなってきました。ツアー旅行的には、毎年1月末はツアー本数も減って、比較的暇になるんですよ。

添乗員をして 良かったこと、つらかったこと

ー添乗員の仕事をしていて良かったと思うのは、どんな時ですか?

坂井さん:お客様が満足してくださることが一番ですね!全員欠けることなく日本に帰国して、空港で税関まで送り届けられた時はひと安心して嬉しいです。その時に「楽しかったです」とひと言でも言っていただけると、本当によかったなと思います。

また、自分から楽しもうとしてくれるお客様とご一緒できると楽しいですね。「これ、こうしたら楽しいですね!」などと教えてくださる方もいらして、私にとっても次の添乗にいかせるヒントになります。私の苦労を理解して、気を遣ってくださったりする方もいるので、そういった時は、とても嬉しくなりますね。

ー逆につらいと感じるのはどんな時ですか?

坂井さん:どんなに一生懸命、誠心誠意やってもお客様に伝わらない時というのがあるんです。やはりいろいろな方がいらっしゃるので…。そういう時は、難しさも感じます。

ただ何か否定的な意見を私に言ってくだったときでも、いい意見をおうかがいできたのだと思うようにしています。それはそれで自分にとっての課題、今後の改善につながるヒントだと思うので、次回はそうしないように心がけるための「ありがたいご意見」として受け止めるようにしているんです。

ーどんなことも「次に活かそう」としてらっしゃる姿勢が素晴らしいですね。

坂井さん:そうしないと、すべてが悪い方に悪い方に向かってしまいますからね。この仕事は、一度何かを悪く捉えてしまったら、どんどん嫌になってしまう可能性が高いんです。若い頃は、同僚も私自身もそういうことがありました。今でも添乗員仲間同士で愚痴を言い合って発散することもあります。ただ、そういったマイナスな出来事を心底から嫌なことにはしたくないんです。

やはり、添乗員という立場でお客様に自分の話を聞いていただいたり、お伝えしたことを守っていただくためには、まず自分自身が自ら柔軟に考えを変えていける人間でないといけないのかなと思っています。

ですから「こういう時はきっとこうした方がいいんだね!」ということを、みんなで話し合って何ごとも前向きに捉えていくようにしています。そんな添乗員仲間がいるのが、ありがたいです。

行って感じ始めた、ヨーロッパの魅力

ーこれまでいろいろな国に行かれてると思いますが、良かった国はどこですか?

坂井さんおすすめはヨーロッパです。実は元々はそんなに興味があったり好きなエリアではなかったんです。若い頃は、まず選ばないエリアでした。

ただ、いざ仕事で行き始めると、ヨーロッパの魅力がわかり始めてきたんです。

建物は石造りなので、木造建築の日本では存続していない何百年も前の建物が、町中にはたくさんあります。そういった歴史の重みを感じる景観を見ていると、自分の歴史もなんとなく感じるというか…祖先が何百年もいるんだなあと、しみじみと感じますね。

また、その建物の歴史、国の宗教、昔の政治など、知らないことが多く勉強しなければいけなかったんですけれども、自分が成長できて、見ていて楽しいと思えるようになりました。ですので、今も行くたびに少しずつ、新しいものを覚えて勉強しています。

ヨーロッパは、その国のライセンスがないとガイドをしてはいけない土地柄ではあるんですが、ガイドさんに近いことがお伝えできるぐらいになっているかなと。自分でも、ちょっと楽しくなっています。「もっと早く行っておけばよかったな」と、今更ながら感じているところです。

ーお話を聞いていると行ってみたくなりますね!では、好きな国というとどのあたりでしょうか?

坂井さん:仕事ではなくプライベートで行きたい、好きなエリアだと、ハワイやパラオなど、とにかく「自分が何もしなくても良い所」ですね(笑)。

特にパラオは、スキューバダイビングのお客様が多い所なんです。観光地という観光地もなく、お買い物をする場所もほとんどなし、遊ぶのは海しかありません。まずツアーでは行かない国ですね。

だからこそ、本当にのんびりできて、ゆっくり何もしないことを楽しめるので、とても大好きな場所です。

現地催行のツアーでのトラブル、納得いくまでフォローした

ー添乗中にはさまざまなトラブルも起こると思いますが、どんな事がありましたか?

坂井さん:小さなトラブルとしてよくあるのは、飛行機の乗り継ぎでお客様がいなくなることです。セキュリティーチェックのブースを通る時にはぐれてしまうというのが、一番多いです。その先がどうなっているのか、私にもわからないので、いつもハラハラします。

ただ、印象的なトラブルとして、現地の旅行会社で問題が発生したときのことです。

ヨーロッパツアーから日本への帰国がドバイ経由だったのですが、いろいろな遅延に見舞われて、次に乗るべき飛行機が飛び立ってしまったことがありました。そのため、飛行機は翌日に振替、予定外にアブダビで1泊することになったんです。

翌日までは自由時間になるので、せっかくならとドバイを観光されたいという方が多くいらっしゃいました。ただこうした場合、旅行会社が決めた本来のスケジュールに入っていないので、添乗員である私が何かを企画したりご案内することはできないんですよね。(何かあった場合、旅行会社として責任が取れないため)

そのため、お客様が現地の旅行会社の半日ツアーを見つけてきて、相談されたんです。お客様には「もしトラブルが起きても対応が難しい」とご了承いただいたうえで、希望の方の予約のお手伝いをしました。

大丈夫だとは思いながらも心配して帰りをお待ちして、もちろんみなさんは無事に帰って来られました。ただ一人の方が、「時間が足らないとかで、予定のところに一つ行けなかったんだよね」とおっしゃったんです。

せっかく行ったのに、それは残念ですね。

坂井さん:そうなんです。なにかよほどのトラブルでもない限り、通常は予定の観光地には行くのがルールです。そのため、現地のツアー会社に「返金はないんですか?」と聞いたら「ない」と。予定の場所に行かなかったのは約束が違うと思ったので、そこは何かしら対応して欲しいと、かなり必死で交渉しました。

参加したお客様は「もう仕方がないからいいよ」とおっしゃったのですが、私自身が納得できなくて(笑)。ツアーを企画したわけではないですが、予約のお手伝いやご紹介をした手前、私の言ったことが噓になってしまうことに憤りを感じたんです。私のできることはこれしかないと思って、かなり粘って粘って…結果、返金してもらうことができました。

日本であれば当たり前に保証してくれることも、海外だとまったく変わります。こういった時、対応の違いや難しさを感じますね。

自分で良い面を作っていくことがやりがいであり続ける秘訣

ー最後に、添乗員という仕事のやりがいはどんなところだと思いますか?

坂井さん:仕事で海外に行けることですね。私にとっては、家庭を離れて、非現実的な世界に連れて行ってもらえるのがとてもいい時間になっています。そういった意味では、お客様と同じ気持ちかもしれません。

添乗員の仕事は、何かトラブルが起こった時はすべて自分の責任になり、ダメージも大きいです。ただ、そうしたデメリットとメリットを天秤にかけた時に、楽しさが勝るからこそやっていけるんだと思います。そのためにも、大変なことやつらいこと、うまくいかないことあっても前向きに考えて、自分でいい面を作っていかないとと思っていますそうすることが、この仕事にやりがいを感じられて、続けていける秘訣なのかもしれません。

※添乗員のプライバシー保護のため、お名前は仮名としております。

(インタビュー・文/叶のどか)

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